これまでレース用のおすすめオイルといてAZの超潤滑オイル「BIc-007 BANK」などを取り上げてきましたが、それらロードバイクのチェーンオイル(潤滑剤)を構成する要素を改めておさらいしてみましょう。
役に立つかどうか分かりませんが、ややマニアックなうんちくです。
ベースオイルと添加剤
まず、チェーンオイル(潤滑剤)は基本的にベースオイルと添加剤からできています。
この2つの意味と構成成分を見てみましょう。
ベースオイルとは?
その名の通り、オイルのベースとなるもの。
ベースオイルのグレードは「アメリカ石油協会」によって決められており、これは自転車に限ったことではなく、車のエンジンオイルなどにも適用されています。
グレードはI~Vまで5段階あり、一般的には数字が大きい程高性能なオイルという評価になります。ただし、添加剤の配合や用途によって性質も異なるので、一概には言えないようです。
ベースオイルの種類分け
ここで少し細かいですが、正式に分けられているベースオイルの分類表を見てみましょう。
分類 | 精製方法による分類 | 呼称 | 硫黄分(%) | 飽和分(%) | 粘度指数 | ||
グループⅠ | 鉱物油 | 溶剤生成油 | ミネラル・鉱物油 | 0.03超 | and/or | 90未満 | 80~119 |
グループⅡ | 鉱物油 | 水素化処理油 | ハイドロクラック | 0.03以下 | and | 90以上 | 80~119 |
グループⅢ | <鉱物油 /化学合成油> | 水素化処理油 | VHVI・HVI | 0.03以下 | and | 90以上 | 120以上 |
グループⅣ | 化学合成油 | 水素化処理油 | VHVI・HVI | PAO(ポリαオレフィン) | – | ||
グループⅤ | 化学合成油 | 合成油 | 合成油・ひまし油 | グループⅠ~Vに属さないもの (エステル・植物油など) |
化学合成油…人工的に作られたベースオイル
グループⅠとグループⅡは石油を精製して作られたもので、不純物を含む場合が多い。グループⅢの原料も石油ですが、ⅠとⅡとは異なる特殊な精製工程を経ており、より高い性能を発揮します。グループⅡとグループⅢの線引きはメーカーによっても曖昧ですが、基本的にはやはりグループⅢになると高級オイル扱いされる傾向にあります。
グループⅢを100%化学合成油と表記するオイルメーカーも存在しますが、厳密に言うと違います。車のエンジンオイルなどでは顕著ですが、多くの消費者は合成油と化学合成油を混同し、この違いを理解していない為、グループⅢのエンジンオイルを化学合成油だと錯覚して高値で購入しているケースが多いです。
グループⅣはPAO(ポリアルファオレフィン)、グループⅤは所謂エステル系と呼ばれるベースオイルで、不純物がなく高品質であることが特徴です。
まとめると、グループⅠ~Ⅲは石油を出発点としたベースオイル。
グループⅣ~Ⅴは化学合成油。
ロードバイクのフレームで例えるとすると・・・・
グループⅡ:クロモリフレーム
グループⅢ:アルミフレーム
グループⅣ~Ⅴ:チタン・カーボン
といったイメージ。(あくまでも雰囲気です)
どのベースオイルが使われているか?
色々専門的でよくわからない表かもしれませんが、結局ロードバイク(自転車全般)向けのオイルとして使われているベースオイルはグループⅡやグループⅢがメインで使われているそうです。
製品の特徴に合わせてグループVも使うこともあれば、様々なものを溶かす(溶剤を添加)ことができるグループⅠを使う事もあります。
添加剤とは?
ベースオイルに混ぜて使うやつ。ベースオイル単体ではサビが発生したり、大きな摩耗が発生したりするため、用途に合わせて特性を調整するために使用されるもの。
ベースオイルが刺身だとすると、添加剤は醤油やワサビ的存在。入れ過ぎても少なすぎてもダメなやつ。
添加剤の一覧
それでは添加剤として主に使われるものの一覧を見てみましょう。車のエンジンオイルに使われている添加剤と同様です。
添加剤の種類 | 性能 | 主な化合物 |
洗浄分散剤 | 油中のスラッジやすすなどを分散し、エンジン内での凝縮・沈積を防ぐ | スルフォネートフェネート コハク酸イミド コハク酸エステル ホウ酸エステル |
酸化防止剤 | 油の酸化を防止する | ジアルキルジチオリン酸亜鉛 |
摩耗防止剤 | 摩擦面に被膜を作り摩耗を防止する | ジアルキルジチオリン酸亜鉛 リン酸エステル |
粘度指数向上剤 | 低温での流動性を保ち、高温での年度低下を防ぐ | ポリメタクリレート オレフィン共重合体 |
流動点降下剤 | 油中のワックスの固着を防ぐ | ポリメタクリレート |
防錆剤 | 金属のサビを抑える | スルフォネート エステル |
消泡剤 | 油表面の泡を抑える | シリコン化合物 アクリル酸エステル |
極圧剤 | 圧力が高くなった時に油膜を切削させ、フレーキング(剥離)を防ぐ | 有機酸塩 硫化オレフィン 硫化油脂 ポリサルファイド |
どの添加剤が使われているか?
もちろん各製品ごとに添加剤の種類や割合は異なります。
おしなべて上記の表の7~8種類くらい添加される事が多いようです。
一般的には添加剤メーカーとオイルメーカーは分かれており、添加剤メーカーが用意した「パッケージ」添加剤を用途に合わせてオイルメーカーが選び、そのパッケージごとベースオイルに混ぜる場合もある。
添加剤を混ぜる量や順番、時間、温度など、微妙な調整がオイルメーカーの腕の見せ所です。(当然手間暇かければコストも上がる)
ベースオイルと添加剤どっちが重要か?
基本的にオイルの性能を方向付けるのはやはりベースオイルです。添加剤は先ほども言ったように醤油やワサビなので。
ベースオイルと添加剤の割合は9:1といった場合が多いようです。
しかし、これは車に使われるエンジンオイルと、ロードバイク(自転車)のチェーンに使われるオイルとでは少し見方が異なります。
ロードバイクはじめ自転車の場合は、チェーンやギアの接触部分の圧力が高い(極圧状態が強い)ので、添加剤の要素がオイルの性質をかなり左右します。
極圧剤の功罪
ここに来て個人的に最も注目するのは添加剤の一つである極圧剤の存在です。
私がレースや決戦用に愛用してたAZオイルの「BIc-007 BANK」。
このオイルの謳い文句は「競輪 / タイムトライアル / 決戦用 極圧剤率50%以上」である。
確かに、このオイルはめちゃくちゃ潤滑する。ほんと凄い。
ではこの極圧剤の役割とは?
あえて摩耗させる
極圧剤の役割は
「負荷が高くなった時の抵抗を少なくするためにあえて摩耗させる」
です。
な・・・何言ってるのかわからねー
ペダルを早く回せばその分チェーンの圧力は増します。この摩擦面の接触圧力が高い状態(極圧状態)になると、オイルが凝着し、オイルのフレーキング(剥離)が発生します。そうすると高負荷になればなるほど潤滑性能は落ちてしまうわけです。
それを回避するために切削油を使用します。高負荷になると凝着箇所を削り、凝着を防ぎ、結果的に抵抗を減らすことができます。
なので、あえて摩耗させる。
(高負荷では性能を発揮するけど、低負荷では逆に摩擦係数が高く、パワーロスに繋がるので注意)
摩耗耐性と耐潤滑性能は相反する性能のため、当然BIc-007 BANKなどの耐極圧性能を追求したオイルは摩耗が激しくなります。しかし、高負荷での潤滑性能は申し分ないため、決戦レースやタイムトライアル、競輪などの高速域のレースでは性能を発揮してくれるのです。
ロードバイク向けオイルの性質を区別する
何だか細かい話になってしまいましたが、ここで書いたことはオイル関係者の方からすると、ほんの超超超入門的なことであり、まだオイル界の土俵にも上がってないと言われるかもしれない(笑
しかしベースオイルと添加剤という2つはオイルの特性を知るにあたりとても重要なことです。
次回はこれらを踏まえた上で、ロードバイクのオイルの特性
- ウェット系
- ドライ系
- ワックス系
- サスペンド系
等々・・・について特徴やおすすめシチュエーションをまとめてみようと思います。
サスペンド系はヴィプロスのブルーノだけだけど・・・。
しばらくチェーンオイルの話は続くかもしれません
(/・ω・)/
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