自分のロードバイクに最も適切な空気圧はどのくらいか・・・。これはロードバイク乗りであれば必ずぶち当たる壁でしょう。
「25Cタイヤの方が転がり抵抗が低い」と言われ始めて早数年。今やロードバイク業界の標準は17Cタイヤ×25Cタイヤとなりました。タイヤの太さと空気圧が転がり抵抗に密接に関係していることは当ブログや他サイトでも多く扱われている通りです。
完結にいうと・・・
- 適切な空気圧を入れることで、タイヤの変形を最小限に抑え、転がり抵抗を低くすることができる。
- この変形は23Cよりも25Cの方が少ないため、結果的に25Cの方は転がり抵抗が低くなる。
といったものです。
このタイヤの変形による転がりの損失は一般的にヒステリシスロスと呼ばれています。
高い空気圧は正義か?
このヒステリシスロスを防ぐためには、シンプルに考えると、太いタイヤに高い空気圧を入れれば、それだけタイヤの変形は少なくなります。タイヤ転がり抵抗の実験で有名なサイトROLLING REGISTANCE においても、図表を見れば分かるように、基本的には空気を高圧にすればするほど転がり抵抗は低くなっている結果が見て取れます。
しかし、それとは相反する実験結果がここにあります。
その実験結果を2016年7月に公開したのがSILICAラボのこの記事です。
Part 4B: Rolling Resistance and Impedance
後ほど詳しい内容を見ていきますが、結論としては
「ある一定の空気圧を超えると、転がり抵抗は大きくなる」
という事が書かれています。
ROLLING REGISTANCEとSILICAの相反する実験結果の裏には、「実験室で行った」のか「現実的な環境で行った」のかという実験環境の差があります。
ROLLING REGISTANCEが示しているのは、ローラー台の上で行われた実験での論理的な最適解。
SILICAが示しているのは、より現実的な実走環境下で行われた帰納法的実験結果です。現実的な環境とは、普段我々が走っている、荒れたアスファルト、粗いアスファルト、整備されたアスファルトといった3タイプのアスファルトです。
そして我々が普段身を置いている現実的な環境下で見過ごすことができない要素がここにあります。
それがインピーダンスロスです。
インピーダンスとは何か?
SILICAが言っているインピーダンス(Impedance)とは何か?
最も近い表現は「振動吸収」といったところでしょうか。実験室でのローラー上の環境と違い、実際の路面はデコボコしています。そして、その路面のデコボコや粗さによって引き起こされる、ロードバイクが揺さぶられる際の抵抗を「Rolling Impedence(ローリング・インピーダンス)」という言葉で定義しています。路面の凹凸によって生じるエネルギーの損失です。
ある一定の空気圧から抵抗が増す
上の図を見て頂きたい。これはSILICAが行なった検証結果で、実際の道路を走った際のグラフです。
縦軸が転がり抵抗(Crr)、横軸が空気圧(PSI)です。
薄い青の曲線は理論上の転がり抵抗。濃い青の折れ線グラフが実験室のローラー上で行われた実験結果。薄い青の折れ線グラフが実際の路面を走った際の転がり抵抗の変化を表しています。
注目すべきは110PSIを過ぎたあたりの転がり抵抗です。この空気圧エリアを境に実際の路面では転がり抵抗が大きく増す結果になっています。
これがインピーダンスロスによる転がり抵抗の増加です。
2015年、2016年あたりまでは「ヒステリシスロス=転がり損失」という図式が支配的でしたが、昨今では改めて
ヒステリシスロス+インピーダンスロス=転がり損失
という図式が成り立つようになりました。
ROLLING REGISTANCEの示すとおり、「空気圧が高い=転がり抵抗が低くなる」というのはある意味正解ですが、それは限りなく平坦に近い環境下での転がりを示します。現にトラック競技など、限りなく凹凸がない路面環境においては平均して12barといった極めて高圧な空気圧が適用されています。
しかし、世の中のロードバイク乗りにとって、いつも室内トラック競技のような路面を走るか、と言われるとそうではありません。実際の路面はデコボコしたアスファルトであったり、土がむき出しの地面だったりします。そこでより現実的な指標として重要視されるのがインピーダンスロスなのです。
様々な環境下での実験
もちろん、どのタイミングで転がり抵抗が増すかは使用しているタイヤや路面環境によって異なります。
例えば上の図。赤い折れ線は「荒れたアスファルト」での転がり抵抗の変化。黄色は「やや粗いアスファルト」での変化。そして緑は「整備されたアスファルト」での転がり抵抗の変化です。
重要なのはどの空気圧で転がり抵抗が増すかの分岐点(ブレイクポイント)です。このブレイクポイントはBreakpoint pressureと呼ばれており、空気圧がその地点に到達するまでは転がり抵抗は小さくなりますが、そのブレイクポイント以後の空気圧では転がり抵抗が一方的に上昇していることが分かります。
見ての通り、粗い路面であればあるほど、低い空気圧でブレイクポイントが存在しています。
実際に行った実験条件と結果
さらに細かい検証結果を見ていくために、実際に行われた実験条件を見ていきましょう。
実走路面の条件
実はSILCAではこの実験を行うために、1ヵ月間900メートルの道路を完全に封鎖しました。そしてその道路からアスファルトを一度全て削り、「荒れたアスファルト」「やや粗いアスファルト」「舗装されたアスファルト」再舗装する過程でそれぞれの路面状況下で転がり抵抗の実験を行いました。
↑「荒れたアスファルト」。8mmごとにほぼ均一な凹凸がある。
その後、「やや粗いアスファルト」を経ます。
そして最後に舗装された上の画像のような「舗装されたアスファルト」での実走実験を行っています。
ロードバイク条件
実験に使用されたロードバイクおよびライダーの条件は下記の通り。
- ロードバイク:Cervelo『P4』
- TT(エアロ)ポジション
- ホイール:Zipp 404 Firecrest
- タイヤ:コンチネンタル グランプリ 4000SⅡ(25c)
- 前後タイヤとも同じ空気圧
- ライダーと車体の合計が190ポンド(約86.2kg)になるように、ボトルの水で調整
実験結果
上の図はコンチネンタルグランプリ4000SⅡ(25C)を使用した場合の実際の実験データです。青の折れ線は「ローラー上での転がり抵抗」。赤い折れ線は「荒れたアスファルト」での転がり抵抗の変化。黄色は「やや粗いアスファルト」での変化。そして緑は「整備されたアスファルト」での転がり抵抗の変化です。
傾向としてはやはり同じで、ある一定の空気圧以降は転がり抵抗が大きく上昇する結果となっています。
荒れたアスファルト(赤色)に至っては62PSI(約4.2bar)でブレイクポイントを迎えるという恐ろしい結果だ!!
普段我々が走ったり、ロードレースで走ったりする路面環境は割合的には「やや粗いアスファルト」か「綺麗なアスファルト」が多いでしょう。「綺麗なアスファルト(緑色)」のブレイクポイントは110psi(約7.6bar)、これは予想に比較的近い印象「やや粗いアスファルト(黄色)」のブレイクポイントは100psi(約6.9bar)となっており、コンチネンタル4000SⅡにおいてはおよそ私が普段設定している空気圧に近い数値となりました。
また、この図からもわかるように、ブレイクポイントを過ぎると転がり抵抗が急激に上昇する傾向にあります。そのため、どうせ適正空気圧を”見誤る”のでれば、「空気圧を高く入れ過ぎてしまう」よりも「空気圧を低くしてしまう」方がまだマシな結果を得られるという結果は非常に重要な事です。
結局ブレイクポイントはどうやって見つけるのか?
これらの実験結果が発表されてからしばらく経ち、「空気圧を高くしていくと、あるブレイクポイントを境に転がり抵抗が増す」という考え方は徐々に定着しつつあります。これまで例えば「何となく7bar~7.5bar」といった感覚で調整されていた空気圧は、より繊細な調整が必要だという意識がロードバイク乗りに根差すことでしょう。なぜなら7barと7.5barの間にブレイクポイントが存在した場合、7barに設定した場合と7.5barに設定した場合では全く別ものの転がりとなってしまうからです。
ではここで当然の疑問が湧いてきます。
「結局ブレイクポイントはどうやって見つければよいのか?」
です。
インピーダンスの理論は理解する事はできますが、最も重要なのは「今この状況で自分のロードバイクに最適な空気圧は何なのか?」です。
このブレイクポイントを見つけるためには最低でも
- ロードバイクの重量
- ライダーの重量
- 使用しているタイヤ
- 路面状況
といった要素が必要です。(もっと言うとフレームや機材など細かい要素も・・・)
それらを複合的に組み合わせ、検証し、データを蓄積した結果、初めて最適な空気圧というものが見えてきます。
特に路面状況なんて道路を数キロ走ればあっという間に環境が変わる!!
しかし、誰しもSILCAのような実験を行えれば良いですが、現実的にはそうもいきません。
ということで、次回の記事では「論理的」「感覚的」両方の側面から、我々一般ライダー(?)がその場に合った空気圧の最適解を導き出す方法を考えていきます。
次回お楽しみに。
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